ここ最近「秋葉原はなぜ衰退したのか?」的な記事をよく見かけます。多くの記事は、老舗店舗の閉店・撤退、コンセプトカフェや観光客増加の増加による不健全性・治安悪化、そして大きな客層であったオタクの減少などを指摘し、「オタクの街」としての地位低下を主眼に書かれています。
筆者個人の意見として「秋葉原は"停滞"している」と思っています。そして頻繁に通っていた学生時代から現在に至るまで疑問に思い、街の停滞の大きな原因の1つだと個人的に結論づけているのが「秋葉原に映画館ができなかったから」です。
■比較すらできない、街としての観客動員数ゼロという事実
まず手始めに、Googleマップで秋葉原駅を中心に”映画館”で検索してみてください。おそらく「TOHOシネマズ 上野」と「UDXシアター」が真っ先に出てくると思います。TOHOシネマズは施設名に"上野"を冠してますが、最寄り駅は山手線で1つ隣の駅である御徒町駅です。UDXシアターは基本的にイベントスペースで、常設の映画館ではありません。つまり2026年現在、秋葉原には常設の映画館が存在せず、この状態がおよそ10年以上続いています。(※2015年にアニメ専門映画館が一時的に存在した模様)
これに対して新たな"オタクの街"として比較される池袋はどうでしょう。「グランドシネマサンシャイン 池袋」「TOHOシネマズ 池袋」「池袋HUMAXシネマズ」と3つのシネコンが集中して併存し、この3施設で合わせて26スクリーン・約5300席のキャパシティーがあります。単純計算すると、映画を目的とした観客が1回の上映で5,300人以上が訪れる池袋に対して映画館のない秋葉原は当然ゼロ。映画の観客数において池袋と秋葉原は雲泥の差どころか比較にもなりません。(ちなみに先述した現時点でもっとも秋葉原に近い「TOHOシネマズ 上野」は8スクリーン・約1,375席)
単位を1日・1週間・1カ月と伸ばせば伸ばすほどこの差は大きくなり、つまりは長年にわたり秋葉原は映画の欠如によって膨大な数のお客を逃し続けていたことになります。繁華街としての街の歴史や客層が違うとはいえ、少なくとも映画の観客という分野において、秋葉原は現在進行形で集客力において圧倒的な差をつけられているのです。

■約15年前に"オタク"も映画の観客になり得ることは判明していた
とはいえ、もちろん「映画館に来る人の見込み」がなければ映画館はできません。かつては「オタクは映画を見に行かない」という見方が強かったそうですが、そうした状況はすでに2010年代始めから大きく変化し始めていました。
まだアニメ映画がファミリーもしくは子ども向けという感覚が強い時代に公開された劇場版アニメ『涼宮ハルヒの消失』(2010年)は、深夜アニメ発の劇場版作品としては当時の最高記録である8.4億円の興行収入を記録。ここから深夜アニメ発の劇場版作品は着実な成果をあげていき、
- 『涼宮ハルヒの消失』(2010年)8.4億円
- 『映画けいおん!』(2011年)19.0億円
- 『劇場版 あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(2013年)10.4億円
- 『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ [新編] 叛逆の物語』(2013年)20.8億円
- 『ラブライブ!The School Idol Movie』(2015年)28.6億円
- 『ガールズ&パンツァー 劇場版』(2015年)25.0億円
という風にトップ作品の興行成績は2010年ハルヒの8.4億から2015年ラブライブの28.6億へと3倍以上に上昇しました。
ちなみに同時期の劇場版ジャンプアニメの興行成績は以下の通り。
- 『劇場版 銀魂 新訳紅桜篇』(2010年)10.7億円
- 『劇場版 NARUTO ナルト 疾風伝 ザ・ロストタワー』(2010年)10.3億円
- 『ONE PIECE 3D 麦わらチョイス』(2011年)7.9億円
- 『劇場版 NARUTO ナルト ブラッド・プリズン』(2011年)8.4億円
- 『ROAD TO NINJA -NARUTO THE MOVIE-』(2012年)14.8億円
- 『ONE PIECE FILM Z』(2012年)68.7億円
- 『劇場版 HUNTER×HUNTER 緋色の幻影』(2013年)12.1億円
- 『ドラゴンボールZ 神と神』(2013年)29.9億円
- 『劇場版 銀魂 完結篇 万事屋よ永遠なれ』(2013年)17.0億円
- 『劇場版 HUNTER×HUNTER -The LAST MISSION-』(2013年)8.5億円
- 『THE LAST NARUTO THE MOVIE』(2014年)20.0億円
- 『ドラゴンボールZ 復活の「F」』(2015年)37.4億円
- 『BORUTO NARUTO THE MOVIE』(2015年)26.2億円
13作品のうちラブライブの28.6億円超えは3作、けいおん・まどマギと同等の約20億円以上でも5作という成績を比べてみても、2010年から2015年の間に深夜アニメ発の劇場版作品の集客効果は、少年ジャンプの劇場版と同等かそれ以上に達したことがわかります。
■「オタクの街」なのにアニメ映画100億円超の時代に取り残される……
このように2010年代からアニメはDVDなどで自宅のテレビで"視聴する"従来のスタイルに加えて、映画で集まって"鑑賞する"スタイルがオタクの間にも普及していきました。制作サイドもこうした変化を認識したのか、この頃からTV放送やDVDの販売だけで終わらず、劇場版作品を制作・上映するパターンが増えていきました。同時にアニメ自体が"オタクの趣味"という枠組みを超えて一般にも普及していき、2020年代を迎えると劇場版アニメは映画界を背負う存在となっていきます。
- 『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』(2020年)407.5億円
- 『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』(2021年)102.8億円
- 『劇場版 呪術廻戦 0』(2021年)138.9億円
- 『ONE PIECE FILM RED』(2022年)203.4億円
- 『すずめの戸締まり』(2022年)149.4億円 ※オリジナルアニメ
- 『THE FIRST SLAM DUNK』(2022年)166.7億円
- 『名探偵コナン 黒鉄の魚影』(2023年)138.8億円
- 『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』(2024年)116.4億円
- 『名探偵コナン 100万ドルの五稜星』(2024年)158.0億円
それまでジブリやディズニーアニメーションに限られていた興行成績100億円という記録を劇場版アニメが突破するのが当たり前となり、海外からの人気も高まるなど、かつては侮蔑の対象とも言えたアニメ鑑賞はごくごく当たり前の文化として定着しました。この10~15年の間にアニメは、オタクの趣味から一般化的なホビーへと普及、さらに日本の文化を代表する存在へと大きなトレンド変化が起こり、特に劇場版アニメの躍進はその象徴となりました。
しかし、映画館を持たない秋葉原は結果的にそうした"トレンド変化の象徴"の受け皿にはなりませんでした。さらに秋葉原を訪問する主な目的であった"アニメ・グッズ購入の場"としての価値も、オンラインショッピングの普及やイベント開催の増加、ポップアップストアの拡大などにより相対的に低下。一部ビルの建て替えや店舗の入れ替えを除いて、UDXやアトレ、ヨドバシ建設以降の目立った再開発もない状態がつづき、「古きオタクの街」のまま取り残される形となりました。
こうした取り残された状態で記事冒頭でも記した問題点(*老舗店舗の閉店・撤退、コンセプトカフェや観光客増加の増加による不健全性・治安悪化)が表面化した結果、"衰退"という認識が広がったというのが自分の見解です。
"歴史にもしもは禁物"と言いますが、もし秋葉原に映画館ができていれば……もっと言えばシネコンがあったならば、アニメ映画の観客数増加という時流に乗って"秋葉原の映画館=アニメ映画の聖地"と認識されていたことでしょう。先述の「TOHOシネマズ 上野」が比較的近い立地を生かし、秋葉原のお客に合わせたアニメ重視の編成でプチ聖地化してますが、それよりも一歩二歩進んだ形で、周囲のショップやカフェにも波及したと思います。
さらに映画の観客となれば基本的に訪れるのは日本人が中心となり、新規参入やにわかファン、ファミリー・キッズなどより幅の広い客層が秋葉原を訪れることで新陳代謝が少なからず進み、インバウンド客への偏重も減少、不健全性・治安悪化を抑える効果も出ていたのではないでしょうか。

残念ながら今現在の秋葉原でシネコンが誕生する可能性が限りなく低く、タイミングも遅きに失しました。"かつての栄光"……といえる時期があったのか微妙ですが、「ホコ天の規制緩和」、「大規模商業施設の登場」レベルの革命的な出来事がない限り今後も秋葉原は良くも悪くも「古きオタクの街」のまま"停滞"して存在し続けることになるでしょう。
それについて複雑な思いを持つ人は、自分も含めてそれなりにいるでしょうが、まあ温かい目で見守っていきましょうwww。