TAMAHACHI08 -official blog-(※旧・大西洋少年ジャンプ総合研究所)

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【持論アニメコラム】「ガルパン」の原点が味わえる珍作(?)『クレヨンしんちゃん 爆発!温泉わくわく大決戦』をプチ解説



まもなく放送10周年を迎え、様々な記念企画が発表された『ガールズ&パンツァー』(以下「ガルパン」)。2022年現在、TV放送12話、OVA1作、劇場版1作、最終章3作ほか総集編が公開され、舞台となった茨城県大洗町へのファンによる聖地巡礼が話題になるなど、2010年代を代表するアニメの一つとなりました。

そんな「ガルパン」の知名度とともにその名前が広く知られるようになった水島努監督ですが、実は長らくシンエイ動画で国民的アニメ『クレヨンしんちゃん』のメインスタッフの一人として働いていました。そして、初監督作品となったのも、何を隠そう劇場版での「クレヨンしんちゃん」だったのです。

今回はそんな水島努監督が制作スタッフとして深く関わった『クレヨンしんちゃん 爆発!温泉わくわく大決戦』および同時上映『クレしんパラダイス! メイド・イン・埼玉』について、主に「ガルパン」の視点からご紹介したいと思います。

 

ガルパンで発揮された演出の原点?ひまわりが主役の「一人称視点」ストーリー

1999年公開の「温泉わくわく大決戦」は、映画冒頭は本編ではなく先述した同時上映の短編アニメ『クレしんパラダイス! メイド・イン・埼玉』から始まります。複数の物語をまとめた形で作られたこの作品こそ、水島努初監督作品なのです。その中で「ガルパン」的にとくに注目したいのが、サブタイトル名「ひまわり ぁ GOGO!」です。

こちらはしんちゃんの妹ひまわりが家の中を動き回る様子をひまわりの視点、いわゆる”一人称視点”で描いた物語。つまりは「ガルパン」で度々使われて好評を博した“戦車視点”演出のまさしく原点ともいえるです。

さすがに20年以上前の作品でCG技術なしの手描きということで、まったく同じとはいえませんが、壁にそって走ったり(※正確にはハイハイ)、テーブルの下などをくぐり抜ける様子はどこか既視感があります。

とくに階段から滑り落ちるシーン(※ひろしに体当たりしてお腹に乗った状態)は、「劇場版ガルパン」の磯前神社の階段を下りる場面やCV33のジェットコースターのシーンを彷彿とさせます。

近年のCG技術で奥行感が出せるようになり、激しい機動の様子や主人公のリアルな視点を描くために増えてきたこの「一人称視点」。そんな演出をCGを全く使わず、走行シーンどころか赤ん坊のハイハイで採用するという大胆な発想は今思えばかなり先進的。それが「ガルパン」制作に生かされたことは、勝手ながら間違いないと思われます。

なお、この"一人称視点"は本編内のハンヴィーでの走行シーンの一部でも使われました。

 

■「クレしん」初かつ唯一?自衛隊のリアル戦車と正確な挙動を描く

「温泉わくわく大決戦」本編中盤において、悪役たちの巨大ロボが春我部へ向けて進撃し、それを食い止めるべく自衛隊が登場します。比較的ファンタジーな内容が多い映画クレヨンしんちゃん自衛隊が出てくるのは極めて珍しい、というか個人的な記憶の限りでは唯一の例です。

82式指揮通信車に先導されて90式戦車および74式戦車が往年の怪獣映画のごとく「怪獣大戦争」のマーチを流して現れ、その後ゴルフ場で巨大ロボを迎え撃つわけですが、この時点で「ガルパン」ファン的には2つの記憶が頭をよぎります。

まずBGMではなく戦車側からスピーカーで音楽を流して走行するシーンは、『ガールズ&パンツァー最終章』第2話の知波単学園の合唱を思い出させます。そして、ゴルフ場に戦車という状況は、戦う相手が違うものの『ガールズ&パンツァー 劇場版』冒頭の攻防戦を思い起こさせます。

一連の音楽に関しては、この後使われた「ゴジラ」を含めて本編の監督を務める原恵一さんのアイデアらしいですが、「温泉わくわく大決戦」には音楽担当として「ガルパン」でもおなじみの浜口史郎さんが参加しており、偶然の一致以上のものを感じます。ちなみにですが普通、戦車にスピーカーは標準装備されておりません。

ゴルフ場での迎撃シーンについては、怪獣映画でよくある戦車がスタンバイ済み状態をすぐ映すのではなく、その前にわざわざ信地旋回の細かい挙動まで再現、射撃や着弾の爆発も緻密に描くなど、かなりのこだわりが感じられます。

個人的には『シン・ゴジラ』の多摩川迎撃シーンを見た時には、往年の怪獣映画よりも「温泉わくわく大決戦」のこちらシーンを思い出すほど、今見てもリアリティを感じる出来栄えだったと言えます。

 

以上、個人的なガルパン視点で「温泉わくわく大作戦」について説明させていただきました。年齢的にクレヨンしんちゃんを見てたのが、劇場版でいえばこのあたりの年代なので思い入れが強いのですが、実はこの作品、興行収入的には歴代最低の9.5億円になるそうです……。

確かに自衛隊や政府などの現実組織や実在する兵器が登場して、町が破壊されるなどなかなか生々しさを感じる作品ではありますが、大人になってから観るとけっこう見応えがあると思います。「温泉わくわく大作戦」を含む2000年代前後は「電撃!ブタのヒヅメ大作戦」や「嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」など名作が揃っていますので、昔見た人も未体験の人も是非一度ご覧になってください。

 

……ジブリと違って、前作以外のテレビで旧作の放送は滅多にありませんから。